ズドン！
腹部に強烈な痛みが走る
とたん、目の前にいたはずの夢魔が小さくなった
周りの景色が目にも止まらない速さで前に流れていく

夢魔の一撃をかわしきれずに麗夢は後方へふっとばされたのだ。

一撃を受けた腹部が痛む。
だがそれより。

まずい。

このままではまずい。

麗夢は飛ばされるほう、後方へ意識を集中した。
体の向きを変え、後方へ脚を伸ばした。
麗夢は飛び蹴りの姿勢のまま向かっていく。

周りの空間を巧みに操り、飛んでいく速度を殺す。
つまり強い逆風を起こす、また、空気しかないはずの空間を水の中を
進むかのように空気の質を変え、とにかくあらゆる変化を起こし抵抗を
強くして。

体の周りに強固な壁を張った。
両足を強化した。器官は変えていないが細胞を強力なものにした。
いくら器官が人間でも細胞からこんなに違えば、りっぱに、もはや
人間ではない。

後方の壁をクッションになるように柔らかく、ゴムのようにしなやかに材質を変えた

これだけの変化をこの一瞬で成立させた。

ズズーーーーーーーーーン！！！

麗夢は脚から壁に激突した。
凄まじく、耳をつくほどの轟音が鳴り響いた。
ただの人間であれば、粉々になってシミしか残らないのではないか？


夢魔は驚きを隠せなかった。
タイミングも威力も申し分なし。麗夢は避けることもできずにふっとんだのに。
すぐに強固な壁を具現化させて激突させたのに。

なぜ反撃ができるのだ。

麗夢が壁に激突した。と思ったその直後。

今度は夢魔が逆方向にふっとんだ。

すでに彼方に小さく見える麗夢は、剣を振り下ろしたかっこうだった。
壁に激突した瞬間、夢魔の目前まで、あの距離を一瞬で飛び、夢魔に斬りかかったのだ。

「ちぃっ」

夢魔にも見えないほどの速さで動けるのか

こんどは夢魔がふっとばされている。
周りの景色が高速で前に流れている。
今度は壁を作って止める者もいない。勢いをころす物もない。
夢魔はどこまでも飛ばされていく。止まる気配は一切無い。


ばきぃっっっっっっ！！！

「ぐぅっ！」

突然、麗夢は背後から攻撃された。

夢魔を斬るつもりが防がれて吹っ飛ばしただけになってしまい、
戻ってくるだろう夢魔を迎え撃とうと構えたとたん。

夢魔の強烈なドロップキックを後頭部に受けてしまった。

「ふん、世界を操れるのがきさまだけだと思わないことね」

「くっ、しまった…油断したわ」

ここは夢の中。
麗夢が夢の中の自分を操れるように、
夢魔は夢を操れる。

夢魔は飛ばされながらも世界を操り、
麗夢の背後に飛んでいくように空間を変化させたのだ。

ふっとばされたままの勢いで麗夢に蹴りをくれた。
麗夢の攻撃が凄まじかったこともあり、麗夢はダメージが大きいようだ。

空間をねじまげて、麗夢の背後につなげたのではない。
もともと夢の世界の「方向」や「方角」などあってないようなものである。
夢魔が思えばその通りに、法則や常識を変化させ、世界は夢魔が麗夢の背後に
飛んでくるように変貌した。
いや、世界がそのように変わった時点で、もともとこの世界はそのような世界だったのだ。

後頭部に衝撃を受けたこともあり、麗夢はなかなか意識がはっきりしない。
だがこのままでは夢魔にやられてしまう。
いくら夢魔が弱くなっているといってもそう長い間続かない。
いつ夢魔が最初の強さをとりもどすかわからないのだ。
だが弱くなっていても麗夢は苦戦していた。

このまま　　ちゃんの　の効力が切れてしまえば、まちがいなく、

そのときは殺されるだろう。

夢魔の言う通り、本当の力をひきだせればまだわからないかもしれない。
だが麗夢は迷っていた。
円光たちがアレを見つけたらどうなるだろう？

夢魔が言っていた。夢守の遺産。記録が残っている。
麗夢がそれを手に入れていた。

そんなはずはない。夢魔は嘘をついている。
わたしはそんなもの知らない。見たことも無いはず。

麗夢は何に迷っているか自分でもわからなかった。

麗夢の心の中で、迷いは決断を迫られていた。