−夢操ー

拷問室にいた者たちによれば、わたしが魔を殺したのだという。
だが、これほど無残には、わたしの力では無理だ。
まるで巨大な獣に無理矢理引き裂かれたような、とても人間業ではない。
第一、わたし自身、まったく覚えが…






なんだ？
わたしはどうしてしまったんだ！






「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！」






脳裏に次々と浮かんでは消えていく殺戮の瞬間。
怒りにまかせて魔を

捕らえ、
引き裂き、
握りつぶし、
貫き、
からだのなかからいろいろひきずりだし、

すべてをただの肉の塊に変えていった。




「はぁ、はぁ、…ごほっ、かはっ、はっ、はぁ……」
のどが熱い…だいぶ嘔吐を繰り返したようだ。

本当に自分がやったのか？
感触がはっきり思い起こせる。
だが思い出したらとたんに、また吐きそうになる。

よく見るとわたしの手は血まみれだった。
体も返り血を浴びている。頭から大量の血を被ったようだ。



だが、怒りに我を忘れたからといって、わたしにこんなことができるとは到底思えない。
腕には自身があるが、こんな化け物じみた真似ができるほど人間離れした強さは持ち合わせていない。




「おい！唯恵！いったいどうしたんだ！」
ひとりで困惑していると、しびれをきらしたようにがなりたててきた。

わたしたち魔と戦う者たちを率いる、わたしたちのなかで最強の戦士。
同時にわたしとも生まれたときからの親友である。（喧嘩が絶えないが）

「牙羅…」

自分の名前を呼ばれたことで、わたしが正気に戻ったことを察したのだろう。
先ほどよりは勢いを抑えて話し掛けてきた。

「大丈夫か？なにがどうなったんだ？
　こいつらが血相を変えてやってきたときは、とうとうおかしくなったのかと思ったぜ。
　いつも魔をいじくりまわしてたからな。
　俺の顔を見るなり、　おまえが魔を殺しまくってる、なんて言って大慌てだ。
　しかも捕らえたままじゃない、襲い掛かってきた魔が次々に出てきては、
　おまえがこれまた次々に殺していったそうじゃないか。
　とてもじゃないが信じられなかったぜ。」

なにかやっかいごとに巻き込まれ飽き飽きした感じで喋っていたが、次に険しい表情になり、

「だが、どうやら本当だったようだな…」




しばし、沈黙の時が続いた

だがその間にいくらか気持ちの整理がつけられたようだ。
わたしはひとつの推論にたどり着いた




「わたしはどうやら、夢獄に葬った魔の力に踊らされたようだ」




牙羅の顔が、その全体でハテナ記号を表していた。
だが、わたしには確信があった。
牙羅が理解できるまでとなると、何度も来世をやりなおさないといけなくなるかもしれないが、とりあえず説明してみるか…

その前に、いいかげん……
この吐き気のする部屋から場所を変えたいのだが……










唯恵の没後、数年ののち、彼らは　「夢守」　と呼ばれ、その力を恐れた時の権力者により滅ぼされる運命にあった。



その夢に閉じ込めた、強(恐)大な邪悪たちを残して……