−夢守ー

「−−−ぁ！！
　大変だぁ！！
　大和(ヤマト)の一族が攻めて来たぞーーー！！」

遠くで、そう叫び声が聞こえた。

「なにぃ？！」
「やつらめっ、なんのつもりじゃ！」
「唯恵に知らせろ。姫を逃がすんだ！」
「牙羅を呼べ！蹴散らしてくれるわっ！！」

夢守の一族は大混乱に陥った。

夢守の里。夢守の一族が住んでいる、周りを山に囲まれた村である。
その四方八方から大勢の人間に攻め込まれようとしていた。

普通なら夢操の術を使い、一騎当千の力をみせる夢守だったが、
あの後から、夢獄を使っていた者たちが続々と倒れていった。

その上、大和の一族も、夢守とは違うが、彼ら特有の術を用いて戦っていた。


夢守の一族の抵抗も、大和の大半を倒したが、里のほとんどが焼かれ、
一族のほとんどが殺されてしまった。




「姫、お早く！」

「この里はもうだめだ。なんでこんなときに攻め入ってくるんだ！」

「とにかく、多勢に無勢、里を捨てて逃げるしかあるまい！」

「ちょ、ちょっとまってよ。わたしそんなに速く走れないよー！」

　バタン

みごとなスライディングだった。

「瑠璃姫、御免！」

唯恵は瑠璃を猫をつかむように、首の後ろを持って、スーパーダッシュをしかけた。




そこに可憐な声が響いた。

「そうはさせんぞ」

一人の少女が立ちはだかった。

「何者だ？」

唯恵たちは目をこらして、声のしたほうを見る。

その少女は巫女装束らしき服装だが、
神の加護を受けているというには巨大すぎる威圧感を感じる。

「余は神奈。
　神奈備命(カンナビノミコト)。
　大和の長にして、姫神子(ヒメミコ)である。」

神奈と名乗った少女は幼い顔立ちなれど、
その大きな目には確固たる強い意志を宿している。
髪は腰の辺りまでのびており、いくらか両の肩から前に流して赤い紐で束ねている。

「聖なる一族の者として、お主らの行いを食ひ止めねばならん。
　魔を退ける者共だと聞いていたが、まさか魔を夢の世界へいざなうとは−」

ますます神奈から感じる威圧感が強くなってきた。
周りの大気までもが震えているようである。

「−お主らを許すわけにはいかぬ」

　バサッ

そのとき、神奈の背後に美しい光が走った。

「な、なんと・・」

そのあまり美しさに唯恵たちは息をのんだ。


　　　翼(ツバサ)。


神奈の背に翼が現れたのである。

通常の祭祀や巫女の衣装にしては、少し変わった作りをしていたが、
その理由がこれであった。

神奈の背丈ほどもある、大きく、美しく光り輝く、二翼の白銀羽。
愛らしい少女の姿を神々しくも見せている。

「余がこの姿になったからには、もはや往くことも退くことも叶わぬと心得よ」



だがそのとき、２つの影が神奈のほうへ飛び掛った。
一方は牙羅、もう一方は亜紋。
ふたりとも夢守のなかでは５本の指に入る強者である。

「ぅおぉぉぉ！」
「かぁぁぁぁ！」


神奈は静かに両手を胸の前で合わせると、胸の辺りから強烈な光が輝き出した。


「来たれっ！天の竜！」


神奈が右腕を振り上げたとたん、神奈の周りに巨大な竜巻が起こった。
周りの大木がことごとく地面から離され、舞い上がっていく。

「ぐぁぁぁーー・・・・！」

牙羅と亜紋は一瞬で遥か上空まで飛ばされた。


だが、そこは夢守のなかでも最強を自負する戦士。
何事も無かったかのように地面に降り立つ。

「ふぃー、驚いたぜ。こんな芸当ができるとはなぁ。
　亜紋がいなかったらどこまで飛ばされていたか」

牙羅は半ば興奮気味になっているようだ。
強い相手と戦うときはこうなる。

また、亜紋も戦好きである。
口の端をつりあげ、笑みを浮かべている。

「残念だったな。俺は空の中でも動けるんだ。」

二人が再び突進する構えをみせたとき、

「待ってふたりとも！
　あたしにあの子とお話させて！」

瑠璃が二人を制止した。

「姫ぇ」
「瑠璃姫っ」

ふたりとも瑠璃に止められ、しかたなく構えを解く。

「神奈備命っていったわね。ちょっとあたしの質問に答えてくれない？」

瑠璃は神奈に向かって叫んだ。

「よかろう、最後に余に答えられることならば教えてやらんでもない」

神奈は竜巻の中心から答えた。

「え？」
「なんと？」

竜巻の轟音の中でなぜ会話がなりたったのか、
唯恵たちは一様に顔面を疑問符(ハテナ)にしていた。



「あなたが言ってた、魔を夢の世界へいざなったとはどういうこと？
　私たちは魔を夢に封じ込めているのよ。」

「封じ込める？
　おかしなことを申すな。封じ込めたのなら−


　なぜあやつらは夢から夢へと渡り、人々を殺めておるのじゃ？」