−酷夢ー

「きさまが夢守か…」
夢魔は麗夢を見下ろす。

「かえせ」
強い意志をもった言葉で言った。
夢魔を見つめているだけでその迫力に押しつぶされそうになる。

「我らの主を帰すのだ」
もう一度、夢魔は強く麗夢に問い詰めた。

「え？何こと？」
麗夢は夢魔を睨みながら問いかけた。

「しらをきるな。
　きさまら夢守は己の夢に魔族を取り込み、その力をもっておなじ魔族を殺してきたではないか。
　きさまの中に居るはずだ。さっさと帰してもらおう」

「な・・・・ぁ・・・・
　何を言っているの？わたしの中には夢魔なんていないわ！
　第一わたしは夢を奪われたのよ。
　夢を見ることができないのに、どうしてその夢に夢魔なんかを取り込めるというの！」
夢守の民を侮辱されたと思ったのか、自分の夢のことを出されたからか、
麗夢は声を荒げて否定した。

「そんなたわごとが通用するものか。
　夢守が夢を見れないのは当たり前だ。」

「え・・・・」
麗夢はその言葉に驚きを隠せなかった。

「ならばその力はどう説明する？
　明らかに人間の域を超えているではないか。
　今まで自分の力だと思っていたのか？」
驚いている麗夢など気にも留めずに夢魔は問い詰める。

「あ、あたりまえでしょ。
　わたしは、わたしの力で夢魔たちを倒してきたのよ！
　けっして夢魔の力なんか借りないわ！」
幾年もの長い間夢魔との激闘をくぐり抜けて来た自信が、決して夢魔の言葉に惑わされたりはしない強い意志をみせた。

「たわけたことを。
　きさまごとき人間にそのような力があるわけないではないか。
　それでは人間ではないのだぞ。」

「わたしは人間よ。
　わたしの力は人々の夢を護るための、ドリームガーディアンの力よ」

「あくまでもしらをきり通すというのだな」

夢魔の顔が怒りに満ちたものに変わる。
それとともに、周りの空間も異様なうねりをもちはじめた。

「それより！
　夢を見られないのがどうして当たり前なの！」

夢魔から聞いたときからずっと気になっていたのだろうか。
すでに夢魔は臨戦態勢をとろうというときに、麗夢は疑問を投げかけた。

「こざかしい芝居を！
　これでもまだそんな戯言をほざいていられるか！」

空間のうねりが麗夢の周りでも起き、
たちまち麗夢の動きを封じてしまった。

「くっ！」

麗夢は見えない拘束具によって首から下がまったく動かなくなってしまった。

「えいっ！
　あぁっ！
　はぁぁぁーー！」

必死に解こうとするが、ぴくりとも体を動かせない。

「そ、そんな。
　夢の中ならわたしの力は！」

今までも人質をとられたために動けなくされたことは幾度とあったが、
人質さえ解放されれば自力で破ることができた。
まったく歯が立たないのはメフィスト・フェレスほどの強敵ぐらいだった。

麗夢を動けなくしているものは、この夢の世界そのものだった。
まるでなにもされていないかのように見える。
だが世界は麗夢が動くことを一切許さなかった。

麗夢は動けなくなったときは必死になったが、そのすぐ後、友人の姿をみて、
夢魔が「これでもまだ〜」と言っていたことが、自分の動きを封じることではないことを知った。
夢魔にとっては、麗夢の動きを封じることは、たいしたことではなかったのだ。
動きを封じたのは目をそらせないため。
友人の姿を見せて麗夢を追い詰めようとしたのだ。









さくっ

「んんーーー！」

さくっ

「んーーーーーっっ！！」

ずぶずぶ

「っ！っ！っ！っ！」





軽い音の後、くぐもったような声がした。
さらに、軽い音、何かをさっと軽く切ったような音がして、またくぐもった声がした。
最初は驚きと痛みがまざったような、
次は悲鳴のような、口を空けられないまま叫んだような声だった。
そして、なにかをなにかに、無理矢理ねじ込むような音と同時に、
短い悲鳴が何度となく続いた




麗夢は驚いたためか、目を閉じることもなく、顔を伏せることもなく、それを凝視していた。

「な・・・・な・・・・」

言葉にならない言葉を発しようとした。自分でも何を言おうとしたのかわからなかった。
でも次には友人の悲惨な姿を見て悲鳴をあげてしまっていた。


「やめてーーーーーー！！」


自分ならまだしも、普通の女の子がこれほどの苦痛に耐えれるとは思えなかったのだろう。

夢の中ではどんな怪我をしようが現実では無傷である。
ただし、その怪我のイメージが強烈なら、耐えられなくなるかもしれない。
自分が大怪我をしたと認識し、現実の体にまで同じ傷、あるいはダメージを与えることもある。
また、恐怖によってショックで死んでしまう、あるいは精神が崩壊してしまうこともありえる。

麗夢には、友人がこんなひどいイメージにはとても絶えられないと思ったのだろう。

「やめてっやめてよっその子には関係ないでしょーー！」

「くっくっく、もうみえすいた芝居はさせないよ。
　さぁ、主を解放するんだ。
　さもないとこの娘は死ぬよ」





すでに美奈は痛みで気を失っていた。

麗夢と同様に世界に動きを禁じられ、口を開けることもできなかった。

まず右腕をつかまれ、指を全てはさみのような刃物で切断された。
普通のはさみではこれほど軽く切れない。夢魔が夢を操り、鋭く切れるはさみを具現化したのだ。
さくっと軽い音が一度しただけで、５本の指が途切れ、舞い落ちていった。

美奈は驚きと痛みで悲鳴を上げたが、口が開かないのでくぐもった声が出ただけだった。

突如、美奈の前に巨大なはさみが現れた。
美奈が驚く間もなく、そのはさみは美奈の右腕を、二の腕から切断した。

痛みだけではなく、恐怖が襲い掛かってきた。
口を閉じたまま悲鳴をあげる。

間髪いれず激痛が襲い掛かってきた。
今度は最初よりも小さくなった。
小さなはさみが、切断した右腕の中をゆっくりかきわけていく。
すでに体から離れているはずなのに、その感触が伝わってくる。

美奈ははさみが進んでいくたびに、その激痛に声をあげた。

しかし、美奈の意識は、はさみが腕を通り抜けるまで、もたなかった。