−酷夢ー

びくびくっ
体のあちこちが不規則に動いている。

ぶんっぶんっ
足が引っ張られるように振り回される
ひざ関節から動かずに、ひざと足首の間で曲がる。
振り回されるたびに、ごき、ごき、と心地よい音がする。

口からはダラダラと血が流れ落ちている。
首の力は入っていない。
口から流れた血は顔を伝って頭から下の空間へ流れている。
赤く、光を反射して、赤く、美しい。

背中から何かがぶらさがっている。
びろんと、ずうっと、とても長いひも状のものが地面へ延びている。
背中からでたひもは地面へ着く前に、また上に伸びており、背中につながっている。
腸。
美奈は背中を食い破られ、内臓がぼとぼとと落ちた。
美奈の腸はまだ傷つけられてないだろう。背中の穴からこぼれたのだ。

美奈は生きている。
普通の人間なら死んでいるが、夢魔によって意識が覚めた状態のままにされている。
だから気絶もせず、体の激痛をそのまま感じて苦しんでいる。

もはや美奈の美しい顔は原型を留めておらず、
左眼は異常にへこんでおり、右目の眼球は飛び出してだらんと垂れ下がっている。
鼻があった部分には大きな穴が空いている。ときどきそこを食い破った口だけの夢魔が顔を覗かせる。
いや、口だけだから顔というのは過ちだろうか。
頬にも穴が空いている。もう元の口がどこだったかわからなくなっている。

顔中血だらけで目、鼻、口がどこでどうなっているのかよくわからない。


麗夢はずっと美奈の心の声を聞かされていた。
まともな言葉はほとんど聞き取れない。
悲鳴。
イタイ、とか、タスケテ、とかがときどき聞き取れる。
すでに口では喋ることができないが、麗夢には美奈の苦しみが伝わってきた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ！！」

麗夢が懸命に体を動かそうとする。
美奈を助けようと、動かない体に力を入れる。

夢魔の問いはまったく見当外れで答えることができない。
だがその場しのぎの嘘が通じる相手とも思えない。

「あぁっ！ああああああああ！うごいてーーーーーー！」

体は動いてくれない。
何度も叫んで,
何度も泣いて、
のどは枯れて、
涙はとめどなく頬を濡らしている。

円光もずっと念を送っている。
唱える呪文をいくつも変えて、何度も助けようとしている。
だが円光の法力は一向に効く気配がない。

それにしても、今回の夢魔は何なのだ？
この夢魔から感じる波動は強いが、邪悪な波動だったり、聖なる波動だったりしている。
夢魔から聖なる波動を感じるとはどういうことだ？

麗夢の波動は最初に見かけたときと変わらない。
聖なる波動とは言えないが、邪悪でもない、妖しい気を感じた。
外見は幼い少女に見える麗夢に、こんな強い妖気を感じたことに疑問を抱いたことが、
麗夢に興味を持ち、麗夢を助けるようになった。

麗夢殿は一体何に襲われているのだ？
美奈殿の気が弱まっているのを見ても夢魔には違いないが。

これでは麗夢より夢魔のほうが聖なる存在のようではないか。