−救夢ー

美奈の凄まじい攻撃が続いている。

美奈のすぐ前方の空間から無数の細い光線が走り、夢魔を追いかける。

美奈が麗夢の剣を真似て創造した剣は、夢魔でも避けるので精一杯のようだ。

剣を振るう合い間にも美奈は片手に光の球体を創り夢魔に放つ。

美奈の全身から迸る(ホトバシル)電撃は夢魔に休む間もなくシャワーのように降りかかる。

剣の間合いから離れたとたん、恒星の爆発ほどの強い圧力が巨大な光の柱となって夢魔に襲い掛かる。

麗夢は一瞬あっけにとられていた。

あれほど強力な夢魔がどんどん傷だらけになっていった。

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一体何が起こったのか？

美奈の体は現実ではもう修復不可能なくらいぼろぼろになっていたはずだ。
体中に穴が空き、内臓はほとんどが口だけの夢魔に食い荒らされてしまっていた。
通常の麗夢なら難なく再生できるが、夢魔に無力化されている状態では再生すら満足にできない。
しかも麗夢ではなく美奈なのだ。
反撃どころか、再生どころか、一瞬で意識を失い死んでしまっているはずだ。
生きているのは、わざわざ夢魔がその力で美奈の意識をつなぎとめていたからなのだ。
ただ麗夢を苦しめるために。

その美奈がなぜこれほどの脅威的な戦闘力を発揮するのだろうか？
体の傷も麗夢が再生するときと遜色なく一瞬で治してしまった。

まるで別人のように、数多の死線を潜り抜けてきた戦士のように、美奈は一方的に夢魔を攻撃している。

一体何が…？

麗夢は疑問について考えるより現状を再確認するため気持ちを切り替えた。
いくら美奈が麗夢以上の攻撃力を持ったとしても、あの夢魔を相手にそう長くは持ちこたえられないだろう。

彼が倒れたことで少女も歌うことをやめてしまった。
美奈の間髪入れない攻撃がなければまた動けなくされるとこだ。
その前に彼を助けなければ。

彼は確かに麗夢の力を強くすると言った。
それがいつのまに美奈の力を強くすることになったのだろう？

再び起こる疑問を抑える麗夢。
円光さんからも夢から脱出するように念を送られている。

だが美奈ちゃんを置いていくことはできない。

(何か…)

脱出できる時間だけ、夢魔の動きを止めることができる何かが要る。

(私にできるかしら？)

麗夢は自分一人が犠牲になってもみんなを脱出させられないのではないかと不安になってしまっていた。

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美奈の指先から眩しい輝きが細い光線になって夢魔へと続いている。
夢魔も麗夢も気づいたときには光線が夢魔の体を貫いた後だった。
夢魔の体に大きな穴が空いた。
光線は細く見えたが見えない周囲も破壊するようだ。


夢魔が体の再生と、防御空間の創造に、一瞬集中する。

その一瞬で美奈は呪文を唱えた。

美奈の脚元に円形の魔方陣が浮かんだ。
と思ったら美奈の周りに、美奈を囲むように球体型魔方陣が展開された。
つぎつぎとさまざまな魔方陣が美奈の周りに展開し、
美奈の周囲の広範囲にわたって巨大な魔方陣の集合体ができた。

その間、美奈は体を奇妙な姿勢、ポーズにつぎつぎと変えていった。
体が表現する形、そのものが呪文の一句一句となり力を紡ぐ。

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通常の神力、魔力などと呼ばれているものの発動には、
ひとつの呪文、あるいはひとつの魔方陣を用いるものである。
呪文も魔方陣も、それのみで魔力行使に必要な情報は内包されているからである。

魔方陣と呪文を組み合わせて用いるとかなり高度な術や法を発現させられるが、
使行する者も熟達した経験をもつかなり高度な知識や能力が必要になる。
しかも強力すぎるため、操るためには強力な触媒、寄り代が必要だった。

舞踏は祭りなどで用いられる神や魔への意志伝達の方法である。
意思というほど明確なものは伝えられないがなんとなく察しはつくという程度である。
古代はまだ舞踏を用いて魔力行使をしたが、現代の祭事には見物者を楽しませる以外の効力は無い。

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だが美奈は呪文、魔方陣、舞踏の全ての方法を組み合わせて魔力を紡いでいる。
何を発現するにしても、かなり強力な存在を生み出せるはずである。
なにも具現化せずとも、そのまま夢魔にぶつければ、破壊力として恐ろしい威力を発揮できるはずである。

それほどの複雑高度な魔力行使を美奈は一瞬でやり遂げた。

夢魔が自分の傷を修復する一瞬。

麗夢が彼の元へ瞬間移動し、彼を抱えて夢魔から距離をとろうとした一瞬。

麗夢も夢魔もが夢の時間を遅らせて初めて知覚できるその一瞬。

美奈は二人でも追いつけないほどの高速度で、呪文を唱え、魔方陣を描き、舞った。



「みんな！……おねがい！」



美奈の祈るような声に答えるかのように。
美奈の周りに無数の淡い光の玉が浮かんだ。

その暖かな光たちは美奈を護るかのように、美奈の周りに集まり、美奈を包み込んだ。

そして次の刹那。

「わっ」

夢の空間は光の玉だらけになった。

前後左右、上下、麗夢の周りも夢魔の周りも、淡く暖かい光がふわふわと浮かんでいる。

麗夢は驚いた瞬間を夢魔に隙をつかれるかと思ったが、
夢魔も軽く驚いたようで、慎重に辺りをうかがい、美奈と麗夢を交互に注意している。

一体美奈は何をするつもりなのか？

だが、麗夢も夢魔もあたたかい光にほんの少し安心させられた気がした。



「みんなっ！麗夢さんを助けて！あの人をやっつけてーーーーー！」


美奈の叫びを受けて、つぎつぎと生まれる。



「夢の騎士たちっ！」



美奈を護るナイトの誕生である！