−救夢ー

「夢の騎士たちっ！」

淡い光の玉がぽんっとはじける。

その直後、そこには一人の少女がいた。
美奈や麗夢より年上に見える、高校生くらいの少女。
頭の両側で長い髪をおおきなリボンで束ねている、セーラー服を着た可憐な少女だ。

また別の光からは巨大なロボットがでてきた。
まるで超高層のビルのように巨大な鉄の巨人である。

そのまた別の光からは化け物がでてきた。
コウモリの翼。するどい牙。耳まで避けた口。筋肉質の胸板に獣の脚と尾。
化け物というより悪魔そのものである。



光の玉はつぎつぎとはじけとび、後からさまざまな者が出てきた。
人間なら男女関係なく大人から子供まで、
動物も犬や猫だけでなく、ユニコーンやドラゴンなど存在しない霊獣すらいる。
機械もさまざまなロボットや戦艦が巨大な姿をあらわしている。

美奈の周りには、共に夢魔の女王と戦った、あの人形達が美奈を護るかのように立ちはだかっている。



「ありがとう。みんな。」



いつのまにか、この夢の世界には大勢の登場人物がひしめきあっていた。
この全てが美奈の力で生み出されたものだというのだろうか？

美奈は再び会えた人形たちに嬉しそうな笑顔を向ける。ひとすじの涙が光る。

だがその笑顔もすぐ「キッ」と怒りの表情になり、夢魔を睨みつけた。


その途端夢魔の背筋に悪寒が走った。

夢の世界に所狭しと広がった大勢の意思が、美奈の意思を写し、
夢魔を敵と判断し攻撃態勢になったからである。

一体この者たちはどれほどの攻撃力を持っているのか？
まさか全員が美奈と同じ強さだとはかぎらないが…
全員がただの幻だというには存在感がありすぎた。

夢魔は死なないまでもかなり深手を負わされると感じた。
体の再生や身を護ることに専念しなければいけない。
この数を一度に消せるだけの力があるだろうか？そこまで弱い存在たちとは感じられない。

夢の世界を支配している能力を解除して戦闘に集中させる必要がある。

そうなるとこのままでは麗夢に逃げられてしまう。



夢の騎士たちの攻撃が始まった。

セーラー服の少女は指先から光線を放つ。
「クレッセントビーム！」

続けて他の少女も稲妻や炎をだした。
「バーニングマンダラ！」
「シュープリームサンダー！」
「マーキュリーアクアラプソティー！」
「ワールドシェイキング！」
「サイレンス・グレイブ・サプライズ！」

ロボットはひじから拳までをミサイルのように飛ばす。
「ロケットパンチ！」

悪魔は頭にある二つの触覚の間で放電させ、強力な雷を落とし、さらに手から巨大な炎の柱を出した。

勇者はギガデインを唱えた。

しっぽの生えた子供は体の横で合わせた両手の中で光の玉を作り、体の前に出したとたん大砲のような太い光線を出した。
「かめはめ波っ！」

杖を持った少女たちはその杖から光線や光球を出した。
「エンジェル・エイド・ボム・ビーム！」
「バーニングフラッシュ！」
「萌え萌え！メディカルシャワー！」
「プリティ・コケティッシュ・ボンバー！」
「ヘブンズ・レイ！」

全ての戦艦が轟音とともに砲弾や光線を発射する。
「波動砲発射！」
「グラビティブラスト！」

ペガサスは全身を光の矢に変えて突進する。

学生服の青年が体から幽霊のようなものを出すと幽霊は夢魔に向かっていった。
「オラオラオラ！」
「エメラルドスプラッシュ！」

剣を持った少女が剣を一振りすると衝撃波のようなものが飛び出した。
「斬魔剣！ニ乃太刀！」
「直死の魔眼！十七分割！」
「アンリミテッド・ブレイドワークス」

一斉に夢魔へ破壊のエネルギーが注がれる。
その一つ一つが、先ほどの美奈の攻撃と同じくらいの破壊力を持っていた。


「うあああああ！」

夢魔が気合いとともに反撃に転じた。

そのとき、夢の世界が一変した。
夢魔の支配から解かれたのだ。



麗夢はこの機会を逃すまいと、彼を背負って美奈の元へ瞬間移動した。

「今よ。この夢から脱出しましょう！美奈ちゃんすごいわ！あたしのほうが助けられちゃった」
麗夢は心から喜んで美奈に笑いかける。

「うん、自分でもびっくり。きっと麗夢さんたちがあたしを助けてくれたのよね」
美奈は涙を払いながら麗夢と喜びをわかちあった。

「んー、私は何もしてないんだけどー…」
麗夢もちょっと困った雰囲気をみせたが、すぐ真剣な表情に戻る。

「あ、話してる場合じゃなかったわね。すぐ脱出しましょう！」

「はい！」

「わん！」

「にゃあ！」

いつのまにかアルファとベータがすぐそばに来ていた。

「アルファ！ベータ！来てくれたのね」

二匹は器用に二本足で立ち、ムンとガッツポーズをする。
この夢が夢魔から開放されたので二匹もこの夢に入ってこれたのだ

少女と円光が脱出を促す声をかけた。のんびりとはしていられない。

まず彼をこの夢から脱出させた。麗夢と美奈が協力して二匹と少女が道標となった。
意識の無い者を夢から解き放つのは予想されるより面倒だ。
美奈はかなりの力を夢の騎士たちに与えたため、麗夢が彼の意識を飛ばした。
少女が彼の近くにいるため、彼の意識を少女の近くまで届くように二匹に案内させた。

「あのこたちは美奈ちゃんがいなくなったら消えちゃうの？」

麗夢は少し心配そうに美奈に尋ねる。

「私がいなくなってもしばらくは大丈夫だと思いますよ。」

ほっと胸をなでおろす麗夢。
一時退却するにも夢の騎士たちが消えてしまったらまた夢魔に捕まってしまう。

「じゃあ美奈ちゃん、起きたらすぐに迎えに行くからね」

「はい、麗夢さんも急いでね」



美奈がいなくなった後、一度だけ麗夢は夢魔のほうを振り返った。
あれだけの夢魔を倒すにはもっと強くならなければいけない。

いや、強い自分に戻らないといけない。

それが何を意味するのか、麗夢は悲しみと恐怖と深い絶望で心が支配されてしまった。

円光が声をかける。
「麗夢殿。いかがなされた？」
麗夢の動きが止まったためだろう。何かあったのかと怪しまれてしまった。

「いいえ、なんでもないわ。戻ってあの夢魔への対策を考えましょう」

「はい、お待ちしておりますぞ」

円光の念も消えた。
考えるのは外に帰ってから。
今はこの夢から出ることを考えよう。

麗夢は目覚めるため、夢の中で目を閉じた。



「ロザリオ！」



すぐ後ろで声がした途端、

麗夢は光輝く十字架に捉えられた。