−説夢ー

「円光さん、なにか見つかりましたか？」

応接室にいた鬼堂は、ここには特に手がかりになるようなものはないと確認し、隣の書斎にいる円光に声をかけた？

しかし円光からの返事はなかった。

「円光さん？どうしたんです？何か見つかったんですか？」

応接室にいると、佇んだままの円光がいた。

「どうしたんです？あなたらしくもない」

よく見ると、ぼけっとしているというのではなく、ひどく驚いているようだった。
顔は硬直し、額や頬は汗ばんでいる。

ふと、円光が手にしているものが目に入った。

「それは？…」

鬼堂がその本、と呼ぶよりかは紙を無造作に束ねただけの書類、について訪ねたため、さすがに円光もおちついて話ができるようになった。

「鬼堂殿…」

「見つけたんですね。麗夢さんを助ける手がかりを！」

「ええ、おそらくは…拙僧も修行が足りぬ。これしきのことで動揺を隠せないとは。」

「なにが書かれていたのですか？」

なにかおかしい。なにが書かれていたのかはわからないが、円光がここまで我を忘れるというのは尋常ではない。日ごろ修行に明け暮れている者とは到底思えない。

「どうも、麗夢殿の夢は何者かに封印を施されているらしい。」

「なんですって？一体どうして？」

「拙僧もまだ頭の部分しか読んでいないのですが、それは夢の中に悪霊を封じ込める術に関して書かれたもののようです。」

「ばかな！夢魔は夢のなかに生息し、夢を操って人々に害を与えるものじゃないですか！夢の中に封じても意味がない！」

鬼堂はきっぱり否定した。これまでの麗夢たちが夢魔相手にどれだけ苦しめられたか。それを考えるとどうにも納得がいかなかった。

「鬼堂殿…まずは続きを読んでみてからにしましょう」

「そうですね。わたしとしたことが、つい心を乱してしまいました」

苦笑いをしながら、なんとか平静を取り戻そうとする。

「では、わたしに読ませていただけますか？」

やはり、鬼堂は自分で解き明かしたいようだ。

「いいでしょう。拙僧に説明しながら読み進めていただけますか？」















記憶は脳内の電子パターンが作り出している。
夢とは、眠っている間に起動と停止を繰り返す、脳の電子パターンの変化が作り出す、記憶の断片である。
魔を電子信号に変換し、脳内の電子パターンにすることで魔を脳内に蓄積する。

ただし、脳の計算は魔の存在という膨大な計算には追いつかない。
そのため、脳の機能の一部を停止し、その分を魔のパターン計算に費やすようにする。
幸い、我々は夢に関してはある程度操作できる。
夢を見る機能を停止し、夢を計算−具現化する機能を、魔を保存する機能に変更してみる。

魔が手に入ればあとはどう利用するかだ。

古より魔を研究してきたが、これ以上は我々も魔と同等かそれ以上の能力と知識が要る。
しかも生きたままの研究すら難しかった。倒した魔が死体を残さず消失することさえしばしばあった。

だが、これなら魔をそのまま手に入れることができる。
魔の力を手に入れれば他の宗派もたいしたことはない。








魔を退治する者たちを使って実験をしてみた。
まだ未熟な僧だったためか、術に失敗し、魔もろとも死んでしまったからだ。
彼らが行うと、魔に対抗する力が我々より強いのか、ひとつの失敗もせず、魔をその夢に保管することができた。

ここでもうひとつ術を編み出す必要が出てきた。
一度夢に変換した魔を再び実体化できないか？
あるいは、自分の夢に移せないか？
それができれば様々な魔を利用できる。

要は逆の理論である。
あっさりと成功した。



−−（だが、ずいぶん後になって別の成功例が出てきたらしい。
魔がそれ自身の力で現実に実体化したらしい。
その魔だけが特別なのか？なんにしろ、その魔を調べてみる必要がありそうだ。）


現実から夢へ
夢から現実へ

いつしか我々の間では、この秘法を

夢転現（ユメテンゲン）

と呼ぶようになった。